セラピスト取材メディア『THERA-FIL』は、平均寿命ではなく健康寿命を延ばすために、病院以外で本当の健康を届けるために活躍しているセラピスト(Therapist)を1つの記事(Film)として取り上げています。
作業療法士がSNSでの発信を通して、難病の理解を広める活動までにどのようなストーリーがあったのでしょうか。
saoさんのFilmを覗いてみましょう。
目次
saoさんが作業療法士になろうと思ったきっかけを教えてください!
人に寄り添える仕事をしたいと思ったのがきっかけです!
小学生の頃に、祖父が危篤状態になってしまったんです。本当に生きられるかどうか分からない状態だったのですが、奇跡的に一命を取り留めることができました。
それからリハビリをおこなっていくうちに、日常生活を送ったりできるようになったんです。
祖父がリハビリを頑張っている姿がとても印象的で、私も人に寄り添い、命に関わる仕事をしたいと思ったことが作業療法士を目指したきっかけです。
理学療法士と作業療法士でどちらを選択するのかを悩む方も多いと思うのですが、私もその一人でした。
高校生のときに、児童デイサービスのような施設でのボランティアに参加する機会があり、作業療法士の方が発達障害のあるお子さまと関わっている姿を見て、これだと直感的に思いました。
saoさんが作業療法士として現場に出てどうでしたか?
作業療法士になることができ、本当に良かったです!
作業療法を勉強していくと、理学療法との違いも分かるようになりました。
『作業』を中心にものごとを広げ、その方の生活に関わっていくことができるのが作業療法士の魅力です。
また日常生活や子育てのなかで、作業療法士としての知識が生かせているので、作業療法士になって本当に良かったなと思います。
もちろん、良いことだけではなく大変だった経験もあります。
以前は病院に勤務していたのですが、生活背景が複雑な方に関わった際に、孤独に亡くなったり、突然亡くなったりするといった出来事に直面することがあったんです。
そのときは、自分の思いどおりにいかない現実を目の当たりにして、自分の力不足を痛感しましたね。
ただ価値観を押しつけるのではなく、私たちができるのは、支援者として選択肢を提示することだと学ぶきっかけになったんです。
saoさんが重症筋無力症を発症したときのことやSNSで発信を始めたきっかけを教えてください!
難病に対する理解が乏しいと感じたからです!
2019年に、重症筋無力症を発症しました。そのときは育休中だったんですが、最初は目の症状でした。
いくつか病院を受診しましたが、「原因不明」と言われ、転々としているうちに症状が悪化していきました。
産後疲れだと思っていたので仕事に復帰したんですが、歩くことすら困難になり、食事もままならず緊急入院となってしまったんです。
Instagramの発信については、最初は難病に対する理解を広める目的よりも友人に病気を公表するくらいのつもりで始めました。
ただ、そのなかで重症筋無力症について周囲の理解があまりに乏しいと感じたんです。
周囲から「怠けているだけだ」と言われたり、職場の医療事務の方ですら難病の制度について理解していなかったりと、つらい思いや衝突することも多々ありました。
そういった経験から難病に対する理解をもっと広めなければいけないという想いが強くなり、2020年頃から本格的に発信をするようになっていったんです。
もちろん当時は、いきなり前向きに考えられていたわけではなく、生きている意味がないと思ったときもありました。
そんなときに、作業療法士としての考え方をもっていたことで精神面でも救われていたんです。
できないことや失うものが多いと思っていた状況から、自分自身に作業療法をしてみようと思えたことがターニングポイントになりました。
saoさんが現在おこなっている事業や発信内容などについて具体的に教えてください!
当事者と作業療法士の2つの立場から、Instagramで発信をおこなっています!
現在は、Instagramで難病に関する発信をおこなっています。
当事者と作業療法士というどちらも経験している方は少ないので、2つの視点から疾患に対する理解を広めるために活動しているんです。
周囲の方から理解を得られないことでのストレスや、目に見えないようなレベルで生活に支障をきたすことも多々あり、地道に発信をおこなっていくことが大切だと考えています。
生活のなかでの工夫について発信をしていると、次第にInstagramを見てくれる方が増えていきました。
テレビやYouTubeへの出演やアンバサダーの依頼などもいただき、より多くの方に難病について知ってもらえるようになってきたと感じています。
また、バリアフリーアクセサリーの認定講師の資格も持っているんです。
認定講師として、手の力が弱い方や片手でも装着できるアクセサリーを製作したり、実際に製作方法を教えたりしています。
当初は趣味でハンドメイドをしていたのですが、重症筋無力症を発症してから握力が低下してしまったので、リハビリ目的で始めたのがきっかけです。
バリアフリーアクセサリーは、介護美容にもつながるので、今後も需要がある事業になると考えています。
現在は作業療法士にも復帰していて、児童デイサービスで勤務しているんです。徐々に体調も回復し、子どもの肩車や公園の斜面を走っても疲れなくなってきています。
saoさんの今後の活動の展望を教えてください!
作業療法士や現在の活動を続けながら、今までの経験を生かし、子どもたちと関わっていきたいです!
私は作業療法士の仕事が本当に大好きなので、今後も続けていくつもりです。
さらに、これまで実施してきたInstagramでの難病についての発信やアンバサダーも続けながら、バリアフリーアクセサリーの事業も拡大していきたいと考えています。
また、現在は発達障害の子どもと関わることが多いのですが、これまでの自分自身の経験を生かして働いていきたいと思っているんです。
子どものなかには、自己肯定感が低く自分のことを否定してしまう子も多いので、まだまだできることはたくさんあることをもっと伝えていきます。
THERA-FILを通して伝えたいことはありますか?
当事者自身が諦めない気持ちを持って、行動することが本当に大切です!
作業療法士1年目の頃、先輩から「セラピストが治すのではなく、本人が良くしていこうと思わないと良くならないよ」と言われたことがあります。
その当時は言葉の真意を理解できなかったのですが、自分自身が難病患者の当事者になったとき、言葉の意味がスッと腑に落ちる感覚がありました。
自分が前向きに変化していこうと思って行動すると、少しずつ状況が好転していくのを実感したんです。
思いどおりにいかなかった場合も、諦めないことや今の置かれた環境のなかでもできることを少しずつでも実施していくこと、周囲の方の力を借りながら前に進んでいくことがとても大切だと思います。
そうすることで状況は変化していくと思いますので、諦めずに前向きに進んでいってください!
難病の作業療法士sao
作業療法士の資格取得後、病院勤務を経て児童デイサービスに勤務。2019年に重症筋無力症を発症し、療養期間中に難病に対する理解を広めるためSNSでの発信を開始。現在は作業療法士として復帰し、SNS発信に加えてバリアフリーアクセサリーの製作など幅広く活動中。