セラピスト取材メディア『THERA-FIL』は、平均寿命ではなく健康寿命を延ばすために、病院以外で本当の健康を届けるために活躍しているセラピスト(Therapist)を1つの記事(Film)として取り上げています。
病院勤務から介護福祉美容サービス立ち上げに至るまでにどのようなストーリーがあったのでしょうか。
伊藤さんのFilmを覗いてみましょう。
目次
伊藤さんが理学療法士になろうと思ったきっかけを教えてください!
中学生のときに理学療法士の方にお世話になったことがきっかけです!
中学時代、バスケットボール部に所属しており、3年生の集大成となる大会直前にけがをして、試合に出場できませんでした。そのときに、理学療法士の方にお世話になりました。
3年間部活漬けの生活をしていたので、試合に出れなかったことは精神的にとてもつらかったです。
そのときに担当してくれた理学療法士が、若い女性のセラピストでした。精神的な部分もサポートしていただき、私もそんな存在になりたいと思うようになりました。
人の役に立つ職業に就きたいと思っており、看護師と迷うこともありましたが、過去の経験やスポーツトレーナーに興味があったので、理学療法士を目指すことにしたんです。
実習中や病院勤務時代の印象に残る出来事を教えてください!
実習指導者の方や先輩から言われた言葉が印象に残っています!
実習で老人保健福祉施設に行ったときに、指導者から「医療が進歩しても、廃用と老化はなくならない。そこが生活期のリハビリのやりがいだよ。」と言われたことが印象に残りました。
実習後のその言葉が心に残り、いずれは生活期に携わりたいと思ったんです。
まず、生活期に至るまでの過程を経験したいと思い、長期的なキャリアプランを見据えて、急性期や回復期がある大学病院に入職しました。
大学病院に4年間勤務するなかで、2年目に担当した患者さまの経験が特に印象深く残っています。人工呼吸器を装着し、鎮静剤投与が必要なほど重症な方で、当時の私は無知が故にベッドサイドへ行っても四肢の可動域訓練しかできませんでした。
しかし、先輩から「そんなリハビリでいいのか?」と問われたことで、自分の不甲斐なさを痛感し、集中治療について学び始めたんです。
普段、当たり前に行なっている評価・目標設定・治療介入だけでなく、変化しやすい全身状態と治療方針に沿ったアセスメントが必要でした。
この経験で得た知識は、現在携わっている生活期リハビリでも大いに生かされています。
急性期・生活期どのフェーズでも、命・人生を預かる立場が故にこんなものでもいいかという妥協は通用しません。あのときの先輩の言葉が自分を引き上げてくれたので、とても感謝しています。
伊藤さんが介護美容に携わろうと思ったきっかけを教えてください!
訪問看護ステーションの利用者さまとの出会いがきっかけです!
訪問看護ステーション勤務時代に出会った1人の女性がきっかけで、介護福祉美容に関心をもちました。高位脊髄損傷を受傷され、日常生活全般に介助が必要な方です。
元々、美容やオシャレが好きなこともあり、外出時はメイクやファッションを楽しんでいました。
オシャレをして映画鑑賞や都市部へランチへ行く姿を見て、障がいがあっても、自分の好きなことができる人生をサポートすべきだと心を打たれました。
病院勤務では、今後の生活を見据えて基本動作やADL訓練に注力して関わっていました。特に生活期の在宅では、利用者さまご本人の要望やこだわりが病院より垣間見れます。
利用者さまが本当にやりたいと思ったことを実現できるよう、そのやりたいを引き出せる美容に魅力とやりがいを感じました。
この方との出逢いが転機となり、介護福祉美容を広げていきたいと思ったんです。需要があると思い、介護美容の資格も取得しました。
はじめは、どうやって事業としてやっていくかに不安と難しさを感じていましたが、すでに活動されている方の姿が励みになりました。
伊藤さんは現在どんな事業を展開されていますか?
訪問看護ステーションに勤務しながら、介護美容サービスを提供しています!
現在も訪問看護ステーションに週に2日出勤しながら、介護美容事業をおこなっています。
介護美容はおもに介護施設、ご自宅への訪問、地域で活動しています。
行政のほうでは個別対応をおこなうこともあれば、10名ぐらいの方々に集まっていただき、健康維持や美容に関する講話やレッスンを行なっています。
お仕事の依頼は、Instagram経由が多いです。ほかにもご紹介いただいたり、飛び込み営業をすることもあるんです。飛び込み営業は得意ではないんですが、今後の活動拠点を増やしたいこともあり、頑張って介護施設へ営業しています。
伊藤さんの仕事に対する想いや今後の展望を教えてください!
介護美容を通して、自分のやりたいことを考えるきっかけを提供したいです!
病院に勤務していたときは、機能改善や自宅で生活できることを第一に患者さまと関わっていました。もちろんこれからも大切なことですが、患者さまご本人が希望する社会参加や活動につながるアプローチを大切にしています。
美容を通して、どんな人生を送りたいかを考えるきっかけを提供できる存在になりたいと思っています。
ただ、メイクやオシャレをすることで「ここに行きたい。」と目標や希望を引き出すことができるのは、美容がもつ力です。
今後は介護福祉美容を広めながら、目指すビジョンは高齢者の方や障がい者の方が当たり前にやりたいことができる社会をつくることです。
介護福祉美容をはじめ、当事者の方は必要としているサービスや情報に出会えないことが多い現状があります。
そこで、障がいの有無に関わらず多世代が交流できるイベントやサポートをしていきたいと思っています。
まずは、地元で高齢者や障がい者へ介護福祉サービスを届けるイベントを企画しているところです。
ほかの介護福祉に携わる事業者・行政とともに、必要としている方へ必要なサービスを届けていけるよう頑張ります。
THERA-FILを通して伝えたいことはありますか?
どんな人生を送りたいかというゴールから逆算した目標設定・介入してほしいです!
自分の病院勤務時代を思うと、退院までに動作が自立することが患者さまやご家族にとって正しいことだと思っていました。
当事者やそのご家族にとって、退院後の生活を想像することは難しく、良くも悪くもセラピストの介入がその後の人生を左右します。
だからこそどんな生活を送りたいのか、究極どんな最期を迎えたいのかを引き出し、サポートできるセラピストが増えると良いなと思います。
過去の人生、大切にしていること、これからやりたいことなどをたくさん聞き、選択肢を提供してください。
関わっている瞬間だけでなく、長い目で患者さまの人生を考えてみてください。
伊藤 ちひろ(いとう ちひろ)
理学療法士の資格取得後、大学病院や訪問看護ステーションで臨床経験を積む。1人の障がい女性との出会いをきっかけに、『介護福祉美容サービスnico』を立ち上げる。現在は訪問看護ステーションに勤務しながら施設や行政などで介護美容を提供。オンラインサロン運営にも携わっており、多岐にわたり活躍している。