セラピスト取材メディア『THERA-FIL』は、平均寿命ではなく健康寿命を延ばすために、病院以外で本当の健康を届けるために活躍しているセラピスト(Therapist)を1つの記事(Film)として取り上げています。
日本での病院勤務からオーストラリアでの開業に至るまでにどのようなストーリーがあったのでしょうか。
葛山さんのFilmを覗いてみましょう。
目次
葛山さんが理学療法士になろうと思ったきっかけを教えてください!
学生時代にけがをして理学療法士にお世話になったことがきっかけです!
元々プロサッカー選手を目指していたので、サッカー推薦で強豪校に入学したんですが、周りの選手と自分のレベルの違いを痛感しました。
高校1年生の段階で、自分にはプロサッカー選手になることは難しいだろうと感じていたんです。
プロサッカー選手とは別の道を模索していたところ、部活で膝の靱帯を損傷し、当時チームに帯同してくれていた理学療法士にお世話になりました。
半年近くサッカーができないことは当時の自分にはとても苦しく、その理学療法士の方に身体だけでなくいろいろな面でお世話になり、理学療法士を目指すことを決めました。
当時は理学療法士養成校が少なく、簡単に入学することができなかったんです。
受験勉強もしないといけなかったんですが、高校生活の最後までサッカーを続けていたかったので、1年間浪人をして大学へ進学しました。
資格取得後、就職した病院が高校生のときにお世話になった病院だったこともあり、そこでの理学療法士の仕事内容はある程度理解できていました。
そのため、実際の仕事内容にギャップを感じたことはありませんでしたね。
日本の病院で働いた感想を教えてください!
スケジュール管理は大変でしたが、頑張っていて良かったです!
理学療法士として働きながらも、週に5回終業後に大好きなサッカーの練習をおこない、練習後にカルテを書くような生活だったんです。
海外で学会発表をすることもあり、その時期はサッカーの練習や仕事に加えて、学会発表の練習もしていました。
スケジュール管理は大変でしたが、頑張っていて良かったと今では思っています。
大学4年生のときにオーストラリアへ留学し、エビデンスに基づいた治療をすることの重要性を学んだんです。
また、日本で勤務していた整形外科の医師も同様の考えを持つ方でした。
そのような経験から、エビデンスに基づいて介入することが自分のなかに根付いており、分からないことを調べて根拠に基づいた施術をすることは当然だと考えています。
葛山さんがオーストラリアで働こうと思ったきっかけを教えてください!
海外のセラピストに刺激を受けたことがきっかけです!
実は、スペインでおこなわれた国際学会での発表で表彰していただき、その表彰式に出席した際に、海外の理学療法士と話す機会がありました。
日本の理学療法士には開業権がないことを伝えると、非常に驚いていましたよ。
また、日本の理学療法士に対して医学論文数が少ない印象を持たれていることを知り、海外の理学療法士とのギャップを感じたんです。
それが理由で、海外の理学療法士と対等に話せるようになりたいと思ったんです。
それから、医療の先進国で理学療法士に開業権のあるオーストラリアで活動することを考え始めました。
葛山さんの現在の具体的な事業内容を教えてください!
自宅を改装して、クリニックを開業しました!
現在は自宅を改装して開業した『モトモバイルフィジオ』というクリニックを運営しつつ、サッカーも続けています。
ほかにも翻訳の仕事や、セミナーや大学でオンライン講義の講師も担当しています。
基本的に月曜日から土曜日まで働いており、臨床、翻訳の仕事、オンライン講義の準備など、1週間で計35-40時間ほど仕事をしている状態です。
クリニックにいらっしゃる患者さまは、ホームページやかかりつけ医の紹介で来院されることが多いです。
医師とはブリスベン地域での日本人コミュニティーで医療者交流会を定期的におこなわせてもらっています。
痛みの細かい表現などは、母国語でないと難しいという意見を多くの患者さまからいただき、ブリスベン地区での日系医師、フィジオ、ナースなどでこの疾患ではここの紹介するなどのコミュニケーションを取っています。
口コミや医師の紹介、SNSで私のクリニックを知ってもらうこともありますね。
ただ、1人で仕事をしていると分からないことを確認しにくいことや、人とのコミュニケーションを取る機会が少なくなってしまいます。
そのため、以前在籍していたクリニックにも半日ほど出勤し、おもに後輩指導に取り組んでいます。
葛山さんの活動に対する想いを教えてください!
相手が求めていることを把握し、自分の役割を果たしたいという想いがあります!
オーストラリアの医療は、日本の保険制度に近いMedicareというシステムがあり、国民は必要最低限の治療が無料で受けられるシステムです。
それとは別に、Privateと呼ばれる自費診療に近いものもあります。
私は、Privateで施術をおこなっているので費用もかかる分、質の良い治療が求められます。
患者さまは、サッカー選手や会社経営者、産後ケアを必要とする女性など職業や性別もさまざまです。
実力主義の世界なので、今週来院された患者さまが来週も来てくださるとは限りません。それが現実なんです。
だからこそ相手が何を求めていて、それに対して私に何ができるのかを必ず明確にしています。
その積み重ねが今につながっていると思うんです。できないことはできないと言える潔さも患者さまのためですね。
どんな仕事でも、目の前の方から求められている役割を果たすために全力で向き合っています。
葛山さんの今後の活動の展望を教えてください!
現場で患者さまの施術をしていきたいです!
人を雇用することも考えましたが、日本とは違う文化のオーストラリア人をマネジメントするだけの能力が自分には足りていない。
現時点では家族を養うことができ、自分や家族との時間を大切にできる範囲で仕事を続けていきたいと考えているんです。
毎月、日本からクリニックの見学に来られているので、そういった海外の医療に興味がある方のサポートはしたいと思っています。
情報がたくさんある時代だからこそ、間違った印象を持った方が多いので、オーストラリアで働くための正確な情報を伝えていきたいですね。
ただ、海外で働くことがすべてではないと思っています。たくさんのお金と時間を使い、家族にも迷惑をかけ今でも本当にこの選択が良かったとは心の底から言えないのが現状です。
こちらで免許を取れなくても日本で活躍している方はたくさんいらっしゃいます。それでも本当に留学したいという方には、情報共有したいと思っています。
日本の理学療法士免許はほかの国ではほぼ使用できません。オーストラリアで理学療法士として働く場合、次の3パターンに分かれます。
- オーストラリアの大学に入学
- 大学院へ入学
- 国際免許書き換え試験に合格
私は、書き換え試験が難しいと思ったので大学院へ入学しました。
オーストラリアでは開業権があり、レントゲンやMRIの処方も可能です。必要があれば医師へ紹介状を書く必要があるため、大学院では紹介状を書く講義が多くありました。
ほかにもred flag(見逃してはいけない疾患を示唆する徴候や症状)に関する講義も多かったです。
腰痛で来院されて治療をおこない、もし誤診があった場合(癌等のフィジオ適応外の腰痛など)、患者さまから訴えられる可能性もあります。
自分を守るためにも、正しい診断能力が必要不可欠なんです。
私は、施術を受けてくれた選手が活躍することにやりがいを感じているので、現時点で経営に専念しようとは考えていません。
体力がなくなってきたら考え方が変わるかもしれませんが、今は臨床やスポーツ現場がすごく楽しいんです。
大学の講義を教えることも楽しいので、今後も続けていきたいと思っています。
THERA-FILを通して伝えたいことはありますか?
海外で挑戦したい方は今すぐスタートを切りましょう!
皆さんにとって、最善のことをおこなってほしいです。そのためには、医学以外の勉強が必要だと思います。
文化の違う国に行くわけですから相手を尊重する、理解しようとすることは大切です。ただ、日本人は引っ込み思案なのである程度自分を主張するバランスも必要だと思います。
よく日本人は言葉の問題で何も表現しないと、今度はこの人やる気がない・興味がないのかなと思われてしまいますので。
理学療法士として働くうえで、自分にできないことや分からないことを伝えるのは、自身を守るためにも非常に重要です。
できることに関しては、一生懸命取り組んでください。
海外で理学療法士を目指す場合、日本人の一番の課題は英語とお金です。
1年間に400万円の学費が必要で、それが2〜3年と続き、さらに生活費も必要となるのでお金の準備はしっかりしておく必要があります。
しかし、海外で仕事ができれば経済的にもプラスになり、人生の成功も苦労も含めて豊かになるはずです。
理学療法士として海外で仕事をするには、たくさんの壁が待ち受けていると思いますが、オーストラリアに来てみたいと思っている方は、勇気を持って挑戦することをおすすめします。
挑戦したい方は今すぐ行動してみてください。
葛山 元基(くずやま もとき)
理学療法士の資格取得後、整形外科クリニックに就職。選手としてサッカーチームに所属しつつ、海外で学会発表もおこなう。海外の理学療法士とのギャップを感じ、オーストラリア留学を決意。現在はオーストラリアでクリニックを開業し、臨床現場に立ちつつ、オンライン講義や翻訳など多岐にわたり活動中。