セラピスト取材メディア『THERA-FIL』は、平均寿命ではなく健康寿命を延ばすために、病院以外で本当の健康を届けるために活躍しているセラピスト(Therapist)を1つの記事(Film)として取り上げています。
『AOi』の運営をはじめ、幅広く事業を展開するに至るまでにどのようなストーリーがあったのでしょうか?
吾妻さんのFilmを覗いてみましょう。
目次
吾妻さんが理学療法士になろうと思ったきっかけを教えてください!
けがをしたときにお世話になった理学療法士に憧れたからです!
中学校2年生のとき、部活でバスケットボール部に所属しており、部活でけがをしたときに理学療法士の先生にお世話になったのがきっかけでした。
部活ではキャプテンをやっていたんですけど、とてもけがが多くて、自分のプレーに自信がありませんでした。身体的にも、精神的にもすごく辛かったですね・・・
そんな私の状況を察して、身体面だけでなく精神面のケアをしてくれたのが、理学療法士の先生でした。その先生がすごくかっこよく見えたんですよ。
当時、看護師をしていた母に「あの仕事なんなん?」と聞いたところ、理学療法士だと教えてもらいました。
私もこんな仕事をしたいなと率直に思いましたし、何より担当の理学療法士の先生がカッコよかったので、きっと理学療法士になったらモテるだろうなぁという下心もあったのは否めません(笑)
それから理学療法士を目指していたんですけど、高校2年生のときに骨折をしてしまって。そのときに男性の看護師にお世話になり、看護師になりたいなと一瞬揺らいだ時期もあったんです。ですが、直感的に理学療法士がかっこいいなと思い、それからはブレずに理学療法士を目指し、資格を取得しました。
現場に出てみてどうでしたか?
成長痛をたくさん経験できましたね!
まず、学生時代の実習で理学療法士の治療を見学して、頭の回転の速さや知識の深さにやっぱりすごいなと感じました。
資格を取得後、病院に入職して間もない頃は、先輩と自分の実力差に挫折を感じて精神的にも辛かったです。
1年目のときに人工関節の手術をされた患者さまへのリハビリを私がメインで担当し、17年目の先輩がサブで入りました。その患者さまが私と先輩のリハビリや応対にすごく差を感じられて、私は担当を外されたんですよ。それがものすごく悔しくて、同時にかなり責任を感じました。
私たちは1年目だろうが17年目だろうが、患者さまと関わる以上はプロとして見なされるので、責任も伴います。当時を振り返ると、勉強に熱心に取り組むようになったので、私自身大きく変わるきっかけになり、すごくいい経験になったなと思います。
吾妻さんが現在の事業を始めたきっかけは何ですか?
片麻痺のある言語聴覚士の友人からディズニーに誘われたのがきっかけです!
私は臨床をしながら、学会発表したり研修会によく参加したりしていました。そのときに繋がっていった若くて熱いセラピスト仲間ともっと知識を深めたいと思い、『近畿アウトプット会』を発足させました。1日に4症例の症例検討会をおこなう熱苦しい会をおこなっていて本当に仲間が激アツでしたね。
当時は3か月に1回のペースでしかおこなえていなかったので、当時担当していた患者さまについてそのセラピスト仲間に相談したいと思い、オンラインサロンにすることを提案したんです。しかし、当時は仲間に理解してもらえず実現ができませんでした。
そのときに、コロナウイルスが追い風となり名前はそのまま『近畿アウトプット会』でしたが、中身は『理学療法士のオンラインサロン』になりました。
理学療法士のオンラインサロンのオーナーとして活動していくと、看護師のオンラインサロンのオーナーや介護士のオンラインサロンのオーナーなどと繋がることが増えたんです。
その方々と意見交換をしていくなかで、理学療法士だけでなく看護師や介護士など医療従事者が現場での悩みを多く抱えていることも知りました。
それが理由で、理学療法士以外の視点からも現場で業務をしていると、とある出来事がありました。
たまたま介護士さんが認知症の患者さまにタオルを投げつけるところを見てしまったんです。そのとき、私は思わずカチンときて、その介護士さんに怒鳴りました。
その日の帰り道に、「ちょっと待てよ。あの介護士さんもタオルを投げつけたくて仕事をしているわけじゃない。きっと誰かのためにと思ってこの医療介護の仕事をしている気持ちはある。じゃあ、あの介護士さんをそうさせてしまったのは何か…」振り返っていました。
それで気づいたんです。私たち医療従事者が幸せでないといい医療、いい介護を届けられないと。
それがきっかけで、医療従事者の現場の悩みを含め、メディカルをシェアするという意味を込めて『メディシェアJAPAN』という医療従事者に向けたオンラインサロンに変革したんです。
同時に、勤めていた職場を退職し、非常勤講師などのほかの活動も辞めて独立しました。近畿アウトプット会の仲間は9割離れてしまいましたが、それでも自分の信念を信じ突き進みましたね。
メディシェアJAPANでは、”アウトプットは最大のインプット”をスローガンに、セミナーでも一方向制ではなくディスカッション制にしていました。
ただ、累計330名がオンラインセミナーに参加していただくなかで、私自身が一番行動して情報や経験を得ていることに気づいたんです。
そこで、コンテンツつくりをコンテンツにすることで「運営・企画」を経験できる、それが一番の学びになると考え、サロンのコンテンツを変えていきました。
予防の知識をシェアする『ヨボシェア』、スポーツを通して学生と医療従事者をつなげる『スポシェア』、全国の医療従事者が一斉にゴミ拾いをおこなうイベントなど、多くのイベントコミュニティができたんです。
その一環として、「旅行に行きたいけど行けない」と諦めている障がい当事者や、末期がんの患者さまの最期に旅行に同行する「旅行支援事業」を啓発するイベント「AOi」という企画を創りました。
医療従事者だからできる、我々の価値を保険制度の垣根を超えたサービスとして本当に素晴らしいと思ったので拡げたかったんです。
AOiが誕生したきっかけは、片麻痺がありながら言語聴覚士の資格を取得している一般社団法人tsunagariの代表理事の松川力也くんの「吾妻さんディズニーに行きたいんだけど一緒に行きませんか?」という一言でした。
本来はプライベートのお誘いではあったんですけど、お誘いを受けたときに、旅行支援という事業があり、医療従事者の価値を拡げたい旨を力也くんに話したんですよ。
すると松川さんから、「僕の障がい者の友達もディズニーに行きたいと言っているんですが、なかなかいけないと思いこんでるんですよ。その友達も誘うので、吾妻さんも一緒に行けそうな周囲の医療従事者を誘ってくれませんか?」という提案があったんです。
メディシェアJAPANで、旅行管理業務取扱管理者を取得している理学療法士や、実際に旅行支援事業を各都道府県でしている看護師、作業療法士の仲間に声をかけました。15人ほど集まって、みんなでディズニーに行ったのですが、めちゃめちゃ楽しくて。それが現在、100人でディズニーランドに行くイベントまでに発展したAOiの物語が始まりました。
吾妻さんの現在の事業について具体的に教えてください!
AOiでは、障がいを持つ方と医療従事者が一緒に創るイベントを企画しています!
障がいがあるから旅行に行けない。外出できない。このような固定概念を壊すために障がい者と一緒に外出したり、テーマパークに行ったりするイベント活動をおこなっています。
また、AOiは「障がい者のためのイベント」と見えると思いますが、実は違います。医療従事者にもたくさんの出会いや学びがあるんです。
病院で働いていて「もっと何かできることはないか」「少し何かに挑戦してみたい」と考えている医療従事者に対しても、固定概念を壊し、価値観を変えるイベントになるはずです。
実際にディズニーランドに行ったり、さまざまなイベントを企画したり、障がいを持っている方々と一緒に楽しんでいます。
AOiのイベントは、障がいを持ってるから介助や支援するというわけではなく、友達と過ごしている感覚に近いんです。お給料が発生するからではなく、友達だから当たり前に手伝っているという感じです。このAOiの世界観は、ほかのイベントにはないと思いますし、すごく温かい愛のある世界だと思います。
AOiの一番の魅力は、帯同する医療従事者が当たり前のように障がい者のサポートをやってくれて、人の温かさを与えてあげられることだと思います。
物理的なバリアフリーだけではなく、心のバリアフリー。これこそがAOiの根幹です。
日本では、助けたいけど声をかけるのが恥ずかしかったり、断られたらどうしようと不安になったり、誰かほかの人がやってくれるかなと人任せの思考になったり、まだまだ固定概念が強い傾向にあります。
その点AOiは、障がいを持つ方や医療従事者も含めて前向きな方々が集まっているので、障がいをもった人たち同士でも繋がれますし、医療従事者も職業の垣根を超えて友達として繋がれるんです。実際にAOiの中で共同の事業が生まれたり、カップルが誕生したりしているんですよ。
本当に魅力的な事業だと自信を持って言えます。
吾妻さんの活動への想いを教えてください!
固定概念を壊して、時代を変えます!
実は、AOiをメインにさまざまな事業に取り組む中で、私の本当にやりたいことが分からなくなってしまった時期があったんです。自分でも驚いたんですけど、好きな食べ物や洋服すらも分からなくなってしまって。このままではだめだと思い、自分と向き合うために2~3か月の間、私自身の活動を休止しました。
活動休止中に、どうして今まで事業を作ってきたのか?と振り返った時に、固定概念を壊すことをずっとしていたんだと気づいたんです。
障がいがあるから旅行に行けない。理学療法士だから病院で働くべきだ。こういった固定概念があるから自分のやりたいことができない。それが原因で不満が溜まり、人にも強く当たってしまうことがあるんじゃないか。
だったら、根本の固定概念さえ無くなれば人はもっと温かくなれるはずだと思いました。
AOiの企画は、障がいがあってもディズニーに行けることを、障がいを持った方に、そして何より私自身に証明できたので、固定概念を壊すという私のやりたいことと合致したんです。
AOiに参加していただいている方が「障がいがあってもさらに人生楽しもうぜ」という気持ちが溢れていて私よりキラキラしている姿を見て、なんてちっぽけなことで悩んでたんだろうと思いましたね。同時に、彼らのことをより深く知って、彼らがより生きやすい社会にしたいと思いました。
それを実感してから、AOiの活動で本気で時代を変えていきます。
“友達つくりが最大のバリアフリー”を当たり前に。
吾妻さんの今後の活動目標はありますか?
目の前の人をただただ笑顔にする!それだけです!
現在、私は4つの事業をおこなっています。
- AOi(障がい当事者と医療従事者のイベント企画事業)
- 整形外科クリニック プロジェクトマネージャー
- 介護美容事業のコンサルティング
- ヘルスケア事業(オンラインカウンセリング)
それぞれ違うことをやっているように見えて、根幹にあるのは変わりません。それは固定概念を壊すことです。固定概念を壊せば、もっと温かい社会になると確信しています。
自分ができないと思っていることでも、やってみたら意外とできる。ただ知らないだけなんです。できないと思ってもまずはやってみようと思う人が1人でも増えれば、今よりも人に寄り添えるし、もっと挑戦している人々を応援し合える社会になるはずです。
最初のステップとして、まずは自分の周りだけでも温かい社会をつくりたいと思っています。
そしていかに長く継続していけるかが私の使命です。
この素晴らしい事業を継続するために資本主義社会でどう戦っていくか。社会を生み出していくか。守っていけるか。そして広げていけるか。
それが次の僕のミッションだと思い、継続と拡大を目標に熱量を込めて活動しています。
THERA-FILを通して伝えたいことはありますか?
理学療法士はすごいということを伝えたいです!
医療従事者に対して、視野を広げて固定概念を壊してほしいと伝えたいです。そして医療従事者の働き方が病院だけではないことを知って欲しいです。
理学療法士という国家資格だからこそ、働き方によっては行政とも仕事ができるんですよ。私自身もこれまでの経験から、行政と仕事をすることで、社会にインパクトを与えられるんじゃないかと考えています。
自分ができないと思っているだけでやってみたら、意外とできることは多い。
「できない」という固定概念を壊すことが、本当に大切だと思っています。
みなさんも自分の中の固定概念を壊して、今までやりたいと思っていたことに積極的に挑戦して欲しいです。
全員で温かい社会を作って行きましょう!
吾妻 勇吹(あづま いぶき)
資格取得後、現在は、予防を軸にした整形外科クリニックのプロジェクトマネージャーとして活躍しながら介護美容事業のコンサルティング、企業とのヘルスケア事業のプロジェクトを担当。その傍ら、障がい当事者と医療従事者でテーマパークに出かけるイベント事業『AOi』を運営し、”固定概念を変え、愛のある社会にする”という想いを胸にたくさんの方々と共に幅広く事業を展開し活躍されている。