セラピスト取材メディア『THERA-FIL』は、平均寿命ではなく健康寿命を延ばすために、病院以外で本当の健康を届けるために活躍しているセラピスト(Therapist)を1つの記事(Film)として取り上げています。
企業勤めの理学療法士がアパレルブランドを立ち上げるまでにどのようなストーリーがあったのでしょうか。
川副さんのFilmを覗いてみましょう。
目次
川副さんが理学療法士になろうと思ったきっかけを教えてください!
理学療法士の父の存在や人のためになる仕事がしたいと思ったことがきっかけです!
理学療法士の父がいつも近くにいたので、子どものころから人のためになるという仕事を身近に感じていました。
理学療法士という仕事が、人に喜ばれ、やりがいを感じることができる仕事だという認識があったんです。
また私は高校生まで野球をしていたんですが、父から身体の使い方やケアの方法を教えてもらっていたので、大きなけがをしたことがありませんでした。
今では私のことを真剣に考えて関わってくれた父に感謝していますし、そんな父をみていたからこそ、私も理学療法士を目指そうと思いました。
川副さんにとって学生時代に印象的なエピソードなどはありましたか?
義足をつけた方と出逢い、自分のやりたいことが見つかりました!
元々ファッションが好きな普通の大学生でしたが、大学4年生のとき男性ファッション誌に掲載していただいたことがきっかけで、アパレル分野への関心が強くなったんです。
しかし、4年間かけて取得する理学療法士の資格を生かして「リハビリを提供する仕事も行いたい」と思っており、非常に多くの葛藤がありました。
そんななか、1人の義足の男の子とたまたま出会う機会があり、そこで障がいがあることでおしゃれを楽しむうえでの制限が多いことを知りました。
これを知ったとき、理学療法士のスキルを生かしつつ、自分の好きなファッションにも関わることができると確信したんです。
それから、障がいのある方と制作過程から共有したファッションブランドを創るという夢ができました。
そこから逆算して考えたときに、経営やマネジメントスキルなど総合的なスキルも必要だと気づいたんです。
ただ、病院勤務では私が求めているスキルが身につかないと思い、学生のときに病院就職ではなく企業に進むことを決めました。
それから今後のことを考えた際に、私の父と交流のある経営者の方々に私のやりたいことや想いを伝え、実際に見学にさせていただいたこともあったんです。
進路をどうすべきか悩みましたが、大学卒業後は介護事業を中心に展開している企業へ就職しました。
川副さんが現在の事業に至るまでの経緯や内容を教えてください!
街頭インタビューから始まり、クラウドファンディングを経て、服作りを始めました!
就職のタイミングがコロナ渦と重なり行動制限があったので、オンラインを活用して障がいを持つ方のために活動されている方々の話を伺いました。
ある方から「1人の悩みだけではなく、もっとたくさんの調査をおこなうべきではないか」と言われたんです。
その言葉がきっかけで、ほかにも洋服に関する悩みを把握しておく必要があると思い、次の日から車椅子の方に街頭インタビューを始めました。
大半の方には回答していただけませんでしたが、社会人1年目はほとんどの時間を調査に費やしました。
ビジネスに関して全くの無知でしたが、それゆえに考えるよりも先に行動できたことが今では良かったと思っています。
2年目は、集まってくれた有志とともに実際に服作りを始めようとしましたが、運営方法や資金調達方法なども分からず、何も起こることなくプロジェクトが終了したんです。
そこで所属していた会社から出資してもらうために、社長に事業内容をプレゼンし採択してもらいました。
予算をいただいたことで、社内公認プロジェクトとして初めて洋服作りを始めることができるようになったんです。
制作過程で、生地やデザインを一つひとつ決めていくことにも費用がかかることを知り、初めは莫大なお金をかけてしまいました。
どうすれば必要としている方に洋服を届けられるのかを考え、社会人3年目の頃にクラウドファンディングを活用し、たくさんの方々から支援をしていただきました。
本当に感謝しています。
4年目となる現在は、所属する会社の事業とは切り離して個人の事業として展開しています。
川副さんの現在の具体的な事業内容を教えてください!
セミオーダーでの洋服販売、レンタルサービスを構築中です!
現在は『SECTIO』というブランドを立ち上げ、”あなたの着たいをかたちに”というコンセプトを掲げ、障がいの有無に関わらず着れる洋服を制作しています。
インクルーシブデザインというデザイン手法を使用しており、制作過程から当事者の方に携わっていただき進めているんです。
具体的にはセミオーダーとレンタルサービスを構築中になっており、セミオーダー第1弾はワンピースを取り扱う予定です。
車いすを利用されている方の多くは、洋服の丈があと数cm短ければ、車椅子に座るとき洋服が邪魔にならないのに・・・というような悩みを抱えています。
洋服の丈という数cmのわずかな差が、生活に支障をきたしてしまうことがあるんです。
一人ひとりの生活やニーズに答えるために、細かく調整しながら障がいのある方でもオシャレを楽しんでいただきたいという想いでサービスを提供しています。
障がいの有無にかかわらずおしゃれを楽しんでいただきたいという想いで、サービスを構築しています。
これからの川副さんの活動への展望を教えてください!
パラリンピックに携わることができることを目標にしています!
リハビリにはそれぞれが異なる背景を持っており、そこに真剣に向き合えるのは、この職種の醍醐味だと思っています。
自分の根幹にあるのは、障がいの有無に関わらず、当たり前のことを当たり前にできるようになってほしいという想いです。
着たい服があっても障がいがあることで、着ることができない状況を打破したいと考えています。
自分の見た目を良くしたいと思うのは、単純な欲求でありそこに年齢や障がいの有無は全く関係ありません。
誰でも当たり前に着たい服を着れる社会にするためには、専門職の知見が活きてくると思います。
そのための周知活動として、最終的にはコレクションブランドになることを目指しているんです。
今までは漠然と大きいショーなどに参加してみたいと思っていましたが、コレクションを見ない方もいらっしゃいます。
またメディアで取り上げられることも少なく、みてくれている方の対象が曖昧だと気づいたんです。
そこで自分たちのブランドが大きくなったと感じることができ、多くの方に見てもらえる。
なおかつ障がいのある方への服作りの配慮に気づいてもらいやすい場所として、パラリンピックを一つの指標にしています。
実現にはまだまだ遠いですが、衣装提供ができるブランドとして自分のビジョンに近づいていけるよう活動を継続していきたいです。
THERA-FILを通して伝えたいことはありますか?
職域の拡大を視野に入れて、目の前の患者さまと向き合ってもらいたいです!
現代ではSDGsなど、社会貢献が必要とされていると感じています。
社会貢献を考えたとき、専門職は強い存在で理学療法士は身体の専門家として身体や今後生活に関する評価やアプローチなど多面的に対応でき、社会貢献性が高い職種だと思います。
しかしまだまだ認知度が低く、その価値が評価されないことも少なくありません。保険内で私たちができることには制限があり、活動を広げにくいのが現状です。
職域の拡大を視野に入れて動くと、自分が社会貢献できることがみつかると思いますし、目の前の困っている方の解決策を一生懸命考えることが仕事につながります。
そんな理学療法士がもっと増えれば、社会的に価値の評価されやすい職種になるのではないでしょうか。
この考え方を頭の隅に入れてもらえると嬉しいです。決して病院が悪いわけではなく、病院で働く方がいるおかげで病院外で活動できる方がいます。
私が学生のときは病院か教員、研究者の3つしか職場の選択肢がありませんでした。今は理学療法士がそのほかの分野でも活動できることを知ってもらいたいです。
川副 泰門(かわぞえ たいと)
理学療法士の資格取得後、介護事業を展開する企業に就職。学生時代の出逢いをきっかけに、障がいの有無に関わらず着ることができる洋服ブランドを立ち上げる。現在も企業に勤めながら、『あなたの着たいをカタチに』をコンセプトに製品開発をおこなっている。