セラピスト取材メディア『THERA-FIL』は、平均寿命ではなく健康寿命を延ばすために、病院以外で本当の健康を届けるために活躍しているセラピスト(Therapist)を1つの記事(Film)として取り上げています。
病院勤務から作業療法士の認知拡大活動などに至るまでにどのようなストーリーがあったのでしょうか。
出口さんのFilmを覗いてみましょう。
目次
出口さんが作業療法士になろうと思ったきっかけを教えてください!
人の心の動きに興味があったんです!
小学校高学年のときから、人の心の動きにすごく興味がありました。
コミュニケーションをとるなかで、私の発言や態度次第で相手がどういう反応をするのか、どんな感情を抱くのか、そのようなことを常に考えていたんです。
今振り返ると、小学校1年生のときに親が離婚したこともあり、父と暮らしていくなかでずっと大人の目をうかがって、いい子になろうとしていたんだと思います。
高校に入学し当時の担任の先生が「心のリハビリをする専門職がある」と紹介してくださったのが作業療法士だったんです。
元々医療業界に興味があったわけではありませんでしたが、これから需要も出てくるのではないかと担任の先生の勧めで、国家資格ならぜひ取ってみようと思ったことがきっかけでした。
出口さんが精神科に入って苦労したことを教えてください!
精神科に対するイメージが悪くて、世間の認知や風評が良くないことですね!
作業療法士の資格取得後、精神科がある病院に入職しました。
精神科の病院は長期で入院されてる方が多く、30年ほど精神科病院で入院していた患者さまを担当したことがあったんです。
そのときの経験は忘れもしません。その患者さまは、退院して外で生活していきたいという気持ちがあったので、スタッフもそれに向けて環境を整えていたんです。
ただ地域の方々の目が冷たく、退院したのにもかかわらず地域に馴染むことができずに病院へ戻ってきてしまったんです。すごくつらかったですね。
そもそも精神科のイメージが悪いこと、そして作業療法に対する認知度が乏しいと感じました。
もっと精神科の実態を一般的にも広めていく必要があると感じ、そのうえで精神科に対するイメージを変えたいと思うようになりました。
どうやって地域に受け入れてもらったのか教えてください!
病院でイベントを開催し、悪いイメージを払拭するように活動しました!
当時私は、リハビリテーション科で主任という役割を担っており、病院の外で仕事する機会も増え、訪問看護に作業療法士として同行していました。
ちょうど同時期に病院の建て替えがあり、体育館が併設されたんです。
地域の方の精神科に対して、病院には近づいてはいけないというイメージが根強かったんです。
そのイメージを払拭するために病院へ、体育館を開放して地域の方も利用できるようにイベントを開催したいと提案をしました。
移動式のプラネタリウムやフリマの開催など取り組むなかで、地域の方がそこでヨガをやりたいと申し込みがあるなど、少しずつ地域に受け入れられるようになっていったんです。
市の広報誌に病院が載ることも決まって、病院のイメージが少しずつ改善してきたんだという自信にもなりました。
その後、それらはすべてほかの仲間に任せて区切りの良いタイミングで、訪問リハビリに転職をしました。
訪問看護ステーションに転職して、いまは訪問リハビリ1本で仕事をおこなっています。
私のなかで、どうしても地域の方をどうにかしなければいけないという想いが強かったんです。現在は、地域に出向いて身体のリハビリをメインにおこなっています。
ケアマネージャーや市役所の職員、訪問やクリニックの先生など病院で働いていた頃と比べ、関わる職種が変わっていきました。
それと同時に、自分のやりたいことを普及させていくためにインスタでの発信を始めたんです。
インスタを通して、直接フォロワーの方々とやり取りができるのかなと思い始めると、それが好評でDMで質問をいただくようになりました。
学生からの問い合わせが多く、実習の悩みや指導者との人間関係についてなどに答えています。
インスタの発信を続けていくなかで、少しずつ共感してくれる方が増えてきて、仲間つくりにもなっているなということを最近実感しています。
活動に対して込められている出口さんの想いを教えてください!
たくさんの方々が一緒になって楽しめる環境を創りたいです!
私は臨床のなかで、患者さまと友人のような関わり方をします。ただそれを良しとしない風潮もあり、世間の考えが窮屈だなと感じることが多いんです。
有資格者として、権威性を持って患者さまと関わるべきだという考えが強く大事だとは思いますが、患者さまが全然楽しくなさそうに見えるんですよ。
そうなるとリハビリ自体が意味をなさなくなるのではないかと、新人時代からずっと思っていました。
私が思う患者さまとの関わり方とはなんだろうと考えたときに、敬語を使わずにフランクに関わることだと思ったんです。
お金をいただいている側なので、必要最低限の礼儀は弁えます。
そのうえで人としてのつながりを大事にしていくともっとリハビリが楽しくなるのではないか、その人らしさを引き出せるのではないかと思うんです。
出口さんの今後の展望を教えてください!
やりたいことはたくさんあります!
まず、イベント事業をおこないたいです。地域の方も患者さまもご家族も支援者もみんな巻きこんだ、お祭りのような楽しいイベントを開催したいと思っています。
さらに、作業療法は障害を持っている方に対するリハビリだけではないことを知ってもらいたいです。
その普及活動の一つで、テーマソングをつくるなどもっとエンタメ性を出したほうが、より親しみやすさを持てるのではないかと。
ほかにも、患者さまが作成した作品の展示会を開催したいと考えています。
患者さまが作ったアート作品には、障がいを持っているからこそ得られた感性が生かされており、決して真似できないような作品となっているんです。
それを病院内にとどめず、もっとたくさんのチャネルを使って多くの方に見てもらいたい。その活動を通して、作業療法士という職業が広まってほしいと思っています。
THERA-FILで伝えたいことを教えてください!
一人ひとりが手の届く範囲の人を助けるという意識を持ってほしいです!
私の核となっていることは、ある曲の歌詞です。
その曲のサビに「きっとこの世界の共通言語は、英語じゃなくて笑顔だと思う。」という歌詞があります。笑っている方がいたらその方の周りに人が自然と集まってくる。
笑いにも種類がありますが、たくさんの方に笑いを届けられたらと思います。
セラピストも患者さまやご家族の方々など、全員が自分の手の届く範囲の方を笑顔にできる力を身につけていけば、自然と世の中が笑顔になっていくと思っています。
それを意識して日々を過ごしてほしいと思っています。
出口 房幸(でぐち ふさゆき)
作業療法士の資格取得後、 精神科単科の大病院で勤務。その後、精神科単科の小病院でリハビリ科立ち上げに尽力。現在は訪問看護ステーションで勤務する傍ら、作業療法士の認知度向上のために活動中。